特別対談 働く楽しさを実感できる組織づくりとは
- マネジメント
※本コンテンツは、「統合報告書2025」に掲載した対談記事を再掲載しています。掲載内容は2025年11月21日(統合報告書2025発行日)時点の情報に基づいています。

仲間に相談できる風土が新日本科学の強み
―――子育てで直面した大変さを教えてください。
白石 子どもが1歳の時に復職したのですが、当時はちょうど社内に託児所が整っていて、本当に助かりました。毎朝一緒に会社に出社し、帰りに迎えに行く生活は、「大変だ」という感覚はむしろ少なく、安心して働けたと思います。ただ、出張や研修で家族にお願いする時は、子どもが寂しい思いをすることもあります。そうした時には、「これでいいのかな」「仕事を優先してしまっていいのかな」と迷う気持ちになることもありました。そんな時に、同じ立場のママ社員と話すことで気持ちが整理できたのは大きかったですね。周囲に相談できる環境が、どれほど支えになるかを実感しました。
長利 私が子育てをしていた頃はまだ託児所も時差出勤もなく、朝7時に保育園に預けてから出社していました。毎朝後ろ髪を引かれながら出社していたのを覚えています。この経験があったからこそ、「自分の時にはなかった環境を、次の世代には整えてあげたい」と強く思い、託児所設立のモチベーションにもつながりました。今、白石さんのように託児所を利用して喜んでくれている社員を見ると、「やってよかった」と心から思います。困ったときに誰かに話せる、相談できる。そういった存在があるだけで安心につながり、仕事にも集中できる。これも新日本科学らしい強みだと思います。
子育てで得た力を仕事に、仕事の学びを子育てに生かす
―――子育てを経験したことで、仕事の取組み方や視点にどのような変化がありましたか。
永田 私自身、子どもが生まれてから大きく変わったのは時間の使い方です。仕事、家事、趣味、すべてをこなそうとすると、自然と時間配分を工夫したり、同時に複数のことをこなしたりと、やり方を工夫せざるを得ません。できることは同時進行し、集中すべき時は一気に仕上げる。こうした力は、子どもが生まれたからこそ身についたものです。もし子どもがいなければ意識しなかったでしょうし、結果として自分を大きく成長させてくれたと思います。
長利 本当にそうですね。私も子育ての経験が仕事にも確実に生かされています。子どもの変化に気づく力は、部下のマネジメントにも役立っています。例えば「今日は少し様子が違うな」と察知できる。これは子育てから学んだ観察力だと思います。
永田 母親の観察力には驚かされますよね。僕が落ち込んでいるとき、母親には必ず「何かあったの?」と気づかれました。
長利 今まさに子育てをしている人たちは「時間がなくて大変だ」と感じることが多いと思います。でも子どもの変化に気づいてあげられる、そこを大事にしていれば、子供は親の背中を信じて歩むことができるのではないかと思います。
永田 子育てをしていると、限られた時間の中でどう力を注ぐかを考えるようになります。短い時間でも最大の効果を出そうという意識が自然と身につきます。私はピアノが趣味で、最近お客様の記念イベントで演奏を頼まれたのですが、練習時間は限られていました。それでも「この時間で仕上げる」と決めて集中すると、学生の頃より効率的に仕上げられるようになったと感じます。
白石 逆に「仕事で学んだことを家庭に持ち帰る」こともありますよね。例えば研修で「否定せず傾聴する」と学んだのに、家では子どもを頭ごなしに叱ってしまい、反省したことがありました。職場で得た学びを家庭で実践することで、親としても成長できたと感じます。
長利 私も同じです。永田社長の「経営者マインド」※1が好きで、子どもに読み聞かせていました。人としてどうあるべきかが書かれていて、子育てにも通じるんです。
※1 永田社長が毎週社員に向けて発信している経営者の心構えや人として大切にすべき考え方です。当社WEBサイトからご覧いただけます。
自分の取組みが形になり、誰かに感謝された時の喜びは何ものにも代えがたい
―――みなさんにとって「働く楽しさ」とは何でしょうか。
永田 経営陣の役割は「働く環境を整えること」だと考えています。現場の声を聞き、「これは大切だ」と判断したらすぐにアクションを起こし、改善につなげる。その結果としてポジティブなフィードバックが返ってくると、とても嬉しくなります。自分の取組みが形になり、実際に人の役に立った時にこそ、働く楽しさを実感できるのだと思います。
長利 総務人事として制度設計に携わり、社員から「こういう仕組みを待っていました」と言われると、心の中で思わずガッツポーズしてしまいます。特に印象に残っているのは、「なでしこ委員会」※2でランチョンセッションを始めた時のことです。私自身、子育て中に相談できる相手がいなくて苦労した経験があり、後輩たちにはできるだけ安心してキャリアを続けてもらいたいという思いがありました。初回の開催後に「横のつながりができた」「相談しやすくなった」という声をもらったときは、本当にやってよかったと思いました。
白石 入社当初は、「実験そのものが楽しい」という純粋な気持ちでした。会社の規模も大きくなる中で、私自身も責任ある仕事を任されるようになり、会社の成長と自分の成長が重なり合う環境に面白さとやりがいを感じるようになりました。特にお客様から期待され、それに応えられた瞬間は何ものにも代えがたい喜びでした。海外試験を担当する機会も増え、鹿児島にいながらグローバルな環境で研究ができることも働く楽しさにつながっています。
※2 女性が職場で十分に能力を発揮できるよう、現場の声を吸い上げる仕組みとして2014年に発足し、これまでに50を超える改善を実現しています。
理念の浸透が社員の働く楽しさを育む
―――「働く楽しさ」を広めていくために大切にしていることを教えてください。
白石 「話を聴くこと」を大切にしています。介護や子育てなど、社員一人ひとりが抱える事情はさまざまですが、「この人は大変だから、これは任せないでおこう」と周囲が先回りして判断するのは良くないと思います。大事なのは、本人が自ら選べるように、きちんと話ができる場や時間をつくること。若い世代にとっては、早い段階でチャンスを掴むことが将来の成長につながります。だからこそ、できるだけ多くの場面で挑戦し、さまざまな経験を積んでほしいと願っています。
永田 私が大切にしているのは「信頼関係を築くこと」です。そのために、日頃からできるだけ多くの人と雑談を交わすよう心がけています。社内ではあえてエレベーターを使わず階段を利用し、その途中で出会う社員一人ひとりに声をかけたり挨拶を交わしたりすることで、コミュニケーションの機会を増やしています。ときにはプライベートな相談を受けることもありますが、それも日々の小さなやり取りの積み重ねがあってこそだと思います。こうして生まれる信頼と風通しの良さこそが、“働く楽しさ”の土台になると考えています。
長利 私は「感謝と尊敬」を大切にしています。相手が誰であっても尊敬の気持ちを持って話を聴くことを心がけています。今日の働きやすさが明日も同じとは限りません。だからこそ、現場の声を起点にアップデートを重ねていくことが、働きがいや会社の成長につながると思っています。私は昭和的価値観の中で育った世代なので、若い世代の新しい価値観に触れると一瞬戸惑うこともあります。でも、それは無意識の思い込みだと自覚しています。大切なのは、自分と異なる価値観に出会ったときこそ、まず受け止めること。その自覚があるだけで、対話の質は大きく変わると感じています。世代や背景の違いを前提に、互いを尊重し合うことが重要だと思います。
永田 まさにその通りだと思います。尊重は一方通行ではなく、双方向でなければなりません。昭和世代は令和世代の価値観を尊重し、令和世代は昭和世代が築いてきた経済的な土台に敬意を払う。どちらか一方が正しいということではなく、双方の良さを生かして歩み寄る仕組みをつくることこそが、組織マネジメントの要だと考えています。
白石 世代や立場が違うからこそ、新しい発想が生まれるチャンスがありますよね。だから会議体やプロジェクトでは、あえて世代や立場の異なるメンバーをミックスすることを意識しています。矛盾や衝突があっても、それを受け止めて強みに変えていけるパラドクスな組織を目指しています。小さな成功体験が積み重なれば、一人ひとりのモチベーションの花が咲くはずです。
永田 会社は一本の木のようなものだと考えています。幹にあたるのが会社であり、社員や私たちは枝や葉、花のような存在です。枝の太さや細さ、花の色や形はそれぞれ異なりますが、一つひとつに役割があり、全体で木を豊かに彩っています。そして、その木を支える土台として欠かせないのが経営理念です。理念がしっかりと根づいているからこそ、多様な枝葉が自由に伸び、花を咲かせることができます。その木をどう健やかに育てていくかは、経営の責任です。理念が社員一人ひとりに浸透し、自分の役割を誇りに思えたとき、はじめて働く楽しさを実感できる組織になるのだと思います。