対談:非臨床事業の強みと成長戦略 世界に選ばれるダントツのCROへ
- サイエンス
戸谷 圭子 社外取締役
明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授
サービス・マネジメントを専門とし、実務活動においてビッグデータや調査データを活用。現在はストックホルム商科大学欧州日本研究所客員研究員として、スウェーデンに在住。新日本科学ではSDGs委員会の委員長を務める。
角﨑 英志 専務取締役 欧米営業統括部長
獣医師、医学博士、岐阜薬科大学 特任教授(非常勤)
1996年に新日本科学へ入社以来、非臨床事業に従事。鹿児島安全性研究所で試験責任者や所長を経て、SNBL USAの社長として海外事業を担う。現在は非臨床事業の海外営業およびNHP繁殖事業を統括し、欧米を中心としたグローバル顧客との関係強化を推進。
※本コンテンツは、「統合報告書2025」に掲載した対談記事を再掲載しています。掲載内容は2025年11月21日(統合報告書2025発行日)時点の情報に基づいています。
「SNBLなら試験を予定通り実施してくれる」というお客様からの信頼
戸谷 毎月SDGs委員会でご一緒していますが、こうしてじっくりお話を伺うのは今回が初めてですね。とても楽しみにしています。まずは、角﨑専務が非臨床事業に携わってこられた経緯についてお聞かせいただけますか。
角﨑 はい、ありがとうございます。私は1996年に新日本科学へ入社しました。学生時代の専門は獣医学ですが、その中でも特に「毒性学」を研究していました。毒性学は、実はCRO事業の中核である安全性評価に直結する学問でして、私のキャリアに深くつながる選択となりました。入社後は、鹿児島の安全性研究所に配属されました。最初は動物実験の技術者として現場で動物と向き合い、その後試験責任者、いわゆるプロジェクトマネージャーとしての役割を担うようになりました。学生時代に英語文献を日常的に読んでいたこともあり海外のお客様は私が担当するようになりました。アメリカやヨーロッパの研究者と直接やり取りするなかで、若い頃からグローバルな感覚を培うことができたことは、とても良い経験となりました。
戸谷 ここ数年、欧米の製薬企業からの受注が大きく伸びていますが、その背景にはどのような理由があるのでしょうか。
角﨑 一番のポイントは「人に安全に薬を届ける」という医薬品開発の本質に関わる部分です。医薬品は最終的にヒトに投与されるものですが、未知の物質をいきなりヒトに投与することは倫理的にも科学的にも許されません。そこで代わりに実験動物や細胞を用いて生体反応を確認する。それが非臨床試験の役割です。なかでも系統発生学的にヒトに近似しているNHPを用いた試験は科学的合理性が高い、との発想で社長の永田がいち早く取り組んできました。その結果、当社は現在では世界でも稀な「実験用NHPを自社グループで繁殖・供給できる体制」を確立しています。必要なタイミングで必要なNHPを安定的に提供できる仕組みは、特に欧米のお客様から高く評価されています。背景には新型コロナのパンデミックがあります。当時、最大のNHP輸出国だった中国が輸出を禁止したことで世界的に需給が大きく崩れ、研究開発が滞る事態が起きました。その中で安定供給を実現していた当社が改めて注目されたのです。これは「SNBLなら試験を予定通り実施できる」という強みとして、お客様の信頼を大きく後押ししました。

「NHPの安定供給」と「動物福祉への真摯な対応」の両輪が選ばれる理由
戸谷 なるほど。ヒトに近い特性を持つNHPを活用し、その安定供給を可能にした長年の取組みが、まさに当社ならではの強みとして評価されているのですね。ただ、動物を扱う以上、動物福祉の配慮は欠かせないと思います。その点についてはいかがでしょうか。
角﨑 まさに重要なテーマです。私たちは「人の健康を守るために動物の犠牲を伴う」という矛盾を常に意識しています。だからこそ、動物が生を受けている間はできる限り苦痛を少なくし、使用数を減らし、より良い環境で飼育することを徹底しています。これは3R(Replacement,Reduction, Refinement)の原則に沿った国際的な動物福祉の考え方であり、当社も全面的に賛同しています。私が入社した1990年代、日本国内の動物福祉の基準は欧米に比べて10~20年遅れていると言われていました。しかし、当社は1999年に米国ワシントン州に自社施設を建設し、現地の厳格な基準で非臨床CRO事業を運営してきました。この経験が、動物福祉への対応を会社の無形資産として蓄積する契機となりました。私も通算7年ほど現地に駐在し、経営者として体験できたことは貴重でした。その後、日本国内の施設でも欧米基準を段階的に導入し、2011年には国際的な動物福祉認証機関であるAAALACInternational※1の完全認証を鹿児島の研究所で取得しました。以降も改善を重ね、現在では世界最高水準の飼育環境を整えています。
戸谷 つまり動物福祉の取組みは、お客様からの評価にも直結しているのですね。
角﨑 その通りです。特にメガファーマのようなグローバル企業は、独自に非常に高い動物福祉基準を持っています。一定水準に達していなければ、そもそも取引の対象になりません。当社が欧米のお客様から信頼を得ている背景には、この国際水準の動物福祉をいち早く取り入れ、実践してきたことがあるのです。言い換えれば「NHPの安定供給」と「動物福祉への真摯な対応」の両輪が、私たちが選ばれる大きな理由だと考えています。
※1 アメリカを拠点とする「国際実験動物ケア評価認証協会(AAALACInternational)」が、科学研究などで使用される動物のケアや使用プログラムの質を評価し、認証する制度。この認証を取得することは、動物の適切な取扱いや人道的な配慮が国際的な水準を満たしていること、そして、そこで行われる研究の信頼性が高いことを意味します。
プリファードベンダーとは大手製薬企業から「戦略的パートナー」と認められた証
戸谷 ありがとうございます。今、メガファーマという言葉が出ましたが、当社がグローバルメガファーマから「プリファードベンダー」に選ばれたというニュースもありました。そもそもプリファードベンダーとは何か、そして何が評価されたのかを教えていただけますか。
角﨑 はい。プリファードベンダーとは、製薬企業が試験を発注する際に「事前に認定したCROだけに依頼できる」と自社に定めているルールのことです。つまり、自由にどのCROにでも試験を発注するわけではなく、厳しい基準をクリアして「候補リスト」に入った限られたCROだけが発注対象になります。プリファードベンダーに認定されるのは多くても2~3社のCROです。その門をくぐること自体が非常に難しい。ですから選ばれること自体が、大手製薬企業から「戦略的パートナー」と認められた証なのです。評価される条件は厳しく、まずは業界での評判がなければ候補にすら挙がりません。その上で、高度な技術力と確かな品質、そしてタイムリーに試験を遂行できるキャパシティが求められます。当社は、長年積み重ねてきた信頼とNHPの安定供給体制に加え、必要な時に試験を請け負える設備・人財を確保していた点が高く評価されたのだと思います。
戸谷 なるほど。プリファードベンダーに選ばれるには、安定した供給力やキャパシティも重要になるのですね。
角﨑 おっしゃる通りです。私がアメリカから帰国した2017年当時、当社の非臨床事業の売上高(単体ベース)は90億円規模で、海外比率は1割にも届きませんでした。しかし欧米市場は日本の10倍以上の規模がありますから、伸びしろは非常に大きいと確信していました。そこで鹿児島の安全性研究所を拠点に、改めて欧米のお客様を呼び込む挑戦を始めました。実際に取組みを進めると、想定以上にニーズは高く、あっという間にキャパシティが埋まりました。2018~19年にはフル稼働に達し、安定した利益を得られるようになりました。さらに2020年のコロナ禍で中国からのNHP輸出が止まったことで、当社の安定供給力が一気に注目されました。これを契機に欧米のお客様からの受注が急増し、8階建ての新棟建設など大規模なキャパシティ拡充に踏み切りました。現在では非臨床事業の売上は300億円規模に拡大し、世界でもトップ5に入るポジションを確立しつつあります。
戸谷 プリファードベンダーに一度選ばれると、長期的なお付き合いになるのでしょうか。
角﨑 はい。これがメガファーマとの取引の大きなメリットです。中小の製薬企業やバイオベンチャーは、パイプラインの浮き沈みが激しく、今年は案件があっても翌年はゼロということも珍しくありません。その一方で、メガファーマは常に一定以上の開発案件を持っています。ですから、私たちの直近の戦略は「バイオベンチャーとの柔軟な協働を続けつつ、2~3社のメガファーマからプリファードベンダーとして選ばれ、安定的な基盤を築く」というものです。この戦略が奏功し、今では鹿児島の研究所に毎週のようにグローバルメガファーマを含む欧米企業からお客様が訪れ、「SNBLにこの試験を任せたい」と言っていただけるようになりました。単に規模を追うのではなく、高品質なデータを届ける姿勢を守りながらも、一定のスケールを確保したことで、ようやく世界市場で本格的に認知される段階に来たと感じています。

口コミで広がる信頼が新規のお客様との接点を生む
戸谷 欧米でのビジネス展開は、米国から欧州へと広がりつつある段階だと思います。戦略の違いや広がり方について教えていただけますか。
角﨑 実は、欧州の製薬企業も多くは米国に研究拠点を持っています。米国で当社のサービスを知った研究者が、自社の欧州本社に「SNBLという優れたCROが日本にある」と推薦してくださるケースが増えてきました。さらに、欧州企業は日本市場を重視する傾向が強く、日本法人や研究拠点を設けることも多い。当社と仕事をした研究者が欧州本社に紹介することで、自然に欧州のお客様にも広がっているのです。実際に、最近、ある欧州のメガファーマの方が当社を訪れましたが、そのきっかけは同社グループの米国研究者からの推薦でした。こうした「口コミによる広がり」が、新規のお客様との接点を生んでいます。

戸谷 面白いですね。非常に人的なネットワークでつながっているわけですね。
角﨑 ええ。製薬業界は非常に狭い世界で、人を三人介すると皆つながる、と言われるほどです。だからこそ良い評判も悪い評判もすぐに広がります。当社は良い評判を大切に育てることで、新たなお客様を開拓する以上の効果を生みます。特にアメリカは人的ネットワークが強く、私もアメリカの研究者から推薦依頼やリファレンスをお願いされることもしばしばあります。結果として、当社の営業スタイルは「口コミを最大の武器にする」スタイルへと進化しているのです。
ESGへの対応はお客様からの信頼にも直結する
戸谷 最後に、サステナビリティについて伺いたいと思います。私たちはSDGs委員会でも議論を重ねていますが、ESGの観点で当社の強みをどう整理されますか。
角﨑 社会面では、今や非臨床試験を自前でできる製薬企業は世界的にもごくわずかです。多くの企業がCROの力を必要としており、私たちは医薬品開発に不可欠な存在となっています。患者様に薬を届けるプロセスを支えること自体が、大きな社会的貢献だと考えています。政府の視点でも同様です。国民の健康を守る手段として医薬品があり、その開発を支える非臨床CROは政策的にも重要です。社長の永田は首相官邸で創薬エコシステム強化について発表する機会をいただきましたが、それも社会的役割の表れだと思います。環境面では、当社は野生のNHPを一切使用せず、人工的に繁殖した個体のみを研究に用いています。これはワシントン条約に基づく保護の観点からも重要で、自然環境や生態系を傷つけない仕組みを確立している点で環境への貢献につながっています。加えて、森の保全や地熱発電といった事業も展開し、持続可能な経営を追求しています。
戸谷 ESGへの対応は、お客様からの信頼にも直結しているのですね。
角﨑 はい。特に欧州の製薬企業はベンダー選定の条件としてESG評価を重視します。実際に「Ecovadis※2のスコアは?」と聞かれることもあります。こうした基準に真摯に対応し続けることが、お客様からの信頼を維持する前提条件になっています。非臨床事業の強みと同じく、サステナビリティに対する責任ある姿勢が、当社を選んでいただく理由のひとつになっていると感じます。
※2 企業のサステナビリティパフォーマンスを評価する国際的な機関。企業の環境、社会、倫理面での取組みを包括的に分析し、その結果はスコアとして算定されます。世界185カ国以上、250以上の業種をカバーしており、グローバルなサプライチェーンにおけるサステナビリティリスクの管理に幅広く活用されています。